「無造作に愛しなさい。」本人による作品解説

 
1.ごっこ遊びをいたしましょ
何故か色んなレコード会社の方にお会いする機会に恵まれていた頃、という時代がありまして、そういうドサクサな時期にポロッと作った曲です。23歳の時ですね。
この曲を気に入って下さる方は良い人、「なんか難しい曲だね」と苦笑いをする人は悪い人。そんな23歳だったかな。
作り込みの激しい凝った曲だと受け取られがちですが、私の頭の中でのラフの段階から間奏部分のフレーズ等全て決め込んだ状態で出来上がっていました。当時貴重なアドバイスの数々を私に授けてくれていた安部隆雄氏の全面的サポートを受けながら、先ずは完成度の高いデモテープを制作。それから何年も経ってやっとリリースすることになった『無造作〜』に収録することを一度は躊躇しましたが、やっぱり苦楽を共にした曲なので1曲目に。
別名「インドの車売り」。

2.二月生まれ
この曲の歌詞を読んで、作者は二月生まれだと思い込んでいる人が多い様なのですが、私は3月生まれです。
アレンジはカーネーションの棚谷祐一くん。
ギターは当時カーネーションのギタリストだった坂東次郎くん。
アレンジャーの確かな構築性と超絶テクの稀有なギタリストの存在によって、とても上手い具合に歌世界と外界とのバランスが保たれている様に思います。
今聴いても古さを感じさせない。とても巧妙なギミックなんですね。
その時々の面白いアイディアを何も考えず曲中に詰め込むのは、案外簡単なことなんです。
トレンドとされている音像をどこからか拝借して来るのも、知識があれば容易い事です。
そういう世の常として誰もがつい求めてしまう共通ポイントから遠く遠く離れた場所にこの曲は居るのだと、改めて感じました。
この曲の「立ち位置」を慎重に探りながら極力シンプルに音を組み立ててくれた彼等に感謝!
ミックスの時には、エンジニアの原口宏くんの助手として私と棚谷くんがEQやPANの操作を担当。コンソール上に6本の手が行き交いながらのミックスが懐かしいです。

3.地上の恋人達
「おうちへは 帰れない
 お空へは 帰れない」
最初にこの2行がひょっこり出て、そのあとずるずると芋づる式に気持ちよく出て来たんだと思います。昔の事なので記憶も曖昧ですが、「家出娘」のイメージが当時のお気に入りでした。小さな身体に似合わない大きなカバンを持ち歩いたり、実際のところ外泊も多かった。シュワシュワと浮いている様な感覚がいつも付きまとっていて、ほんとに遊んで暮らしてました。

4.アーシャ
ロシアの女の子「アーシャ」は、今分析すると「娼婦」なんですね、びっくり。
幼い娼婦、アーシャ。
音の方では、国立のお店で知り合ったチャランゴ奏者の佐野貴志くんに大活躍してもらってます。このアルバムは国立の名店「奏」でお友達になった音楽家の方々が何人か参加してくれているのです。当時私は「奏」の向かいのマンションに住んでいたのでした。ほとんど第二の我が家状態。大昔ライブでゲスト出演してもらったピアニカ前田さんも、そこで知り合ったんです。
それにしても今聴くと、随分アッサリと歌ってますね。
おおもとのラフテープは更にアッサリ。
「あっさり」というか「おすまし」というか。
そういうお年頃だったのかな、でも今歌詞を読むと「娼婦」だし・・

24歳のころの曲です。

5.春の夜の夢
あの頃とても好きでよく読んでいた倉橋由美子さんの短編の題名から拝借しました。
原作は先ず雑誌に掲載され、後に短編集「夢の通ひ路」(講談社)に収められています。
あの頃とは1989年、まさにこのアルバムを出した年です。
この曲に関してはタイトルをお借りしただけで、歌詞と倉橋氏の小説の内容とは無関係ですが、倉橋世界は確実に私の作風に影響を与えていると感じる部分があります。
大人になってから出会った作家ですが、今でも大好きです。
曲の方は、栗コーダーカルテットの関島岳郎くんによるTubaとOld-Fashioned Junk Hornが冴え渡りまくり!つたないリコーダーは自分で吹いております。
「♪もうあなたを抱きしめることもできない」と歌う後ろに、牛の首にぶら下げる様なカラコロ鳴る牧歌的な鈴の音を録音したところ、「牛飼いの歌みたいだなあ」と最後までプロデューサー鈴木博文が反対しておりました。とっても合ってると思うんですけど・・

6.Bye Bye Black Bird
同名のJazzのスタンダードナンバーがありますが、カバーではありません、念のため。
詞を考える時、最初から必殺の一行が決まっているパターンが多いのですが、この曲は詞と曲がほぼ同時でした。
頭から順番に、子供の頃口ずさんでいた流行歌を何気なく思い出すように作りました。
苦心の痕跡がどこにも無くて、甘味と辛味と酸味がとても無理なく収まっていて、かえって無気味。
どういうわけか歌詞が御高齢の芸術家さんに好評な曲。

7.アネモネ
デモテープの段階では、とても儚い儚いピアノの弾き語りでした。
博文氏が先ずリズムパターンを作り、それに私が無計画に音を重ねていった結果、こうなりました。
聴きかえしてみて、フレンチポップスみたいなアプローチもやってみたくなりました。
何となく映画『ディーバ』を思い出した。
存在感あふれるベースは「アーシャ」と同じく内田健太郎くん。
私の口笛デビュー作品でもあります。

8.汚れた夏
B部分でのお経みたいな博文ベースが、一部で物議をかもしました。以後ライブではどのベーシストもオリジナルを忠実に再現してくれている様です。と言うより、あれしか方法が無いのだと皆口を揃えて言うが、何故・・?あとイントロのやけに大音量のギターも博文氏。
間奏で聴く二胡の響きは、『奏』で知り合った丹後博さん。マンドリンの一人多重奏は吉良知彦くん。
歌い出しの歌詞はそこはかとないエロティシズムのつもりなんですけど、案外女の人にしか分かってもらえなくて残念。確かに私の曲は女族向きの世界ではありますね。

9.無造作に愛しなさい
このアルバムに関するインタビューで大昔に一度喋ってますが、このタイトルは実は歌詞でも何でもなく、もともとある人へのBirthday Cardに添えた一言だったのです。
贈り物に添える言葉としては、あまり相応しくない言葉です。
普段の生活の主軸が根っからこんな感じだったんですね〜、我ながらコワイ時代です。
今の私だったら、あんまりお友達になりたくないかも・・・
サラサラと書いた一言ですが、思いがけず気に入ってしまい曲に仕立てました。
寡黙で知的な人柄通りのギターはカラクの保刈久明くん。
アコーディオンは「二月生れ」のアレンジをしてくれた棚谷くんの楽器を借りて、私が弾いています。当時まだアコーディオンを購入していなかったんです。
そういえば免許もまだ無かったし、打ち込みもできなかったし、コンピュータもいじれなかった。
このアルバムを出すことで本当に私の生活は大きく変化したんですね、しみじみ再認識。
そんなわけで、タイトル曲です。

10.灰にもなれず 塵にもなれず
まず頭の3行が音楽とはまったく関係なくポロポロ出てきて、言葉のスケッチブックに短歌のように書きとめておいたのですが、ある時ふと歌ってみたくなり、その後は「あれれれっ?」と言う間に一つの曲になってしまい気がつけば結果こんな感じに。
題名は、母の学んでいる邦楽(地唄だったと思います)の歌詞を何気なく眺めているうちに触発されて。
ちゃんと思い出せると言う事は、比較的由来がはっきりとしている曲なのですね。
このアルバム全編通してドラムの打ち込み以外の部分を夏秋冬春(現:文尚)くんにお願いしましたが、この曲での彼の独特なリズムの組み立て方には、妙に感心した記憶があります。
限りなく青白い、燃え尽きてしまうかの様なギタープレイは坂東次郎くん。

11.靴をぬいで
一曲だけインストゥルメンタルを入れる事だけが決まっていましたが、自作の既存のインストはどれも長いし力作だし暑苦しいし、なら即興でやりましょう、でこれになりました。
今でもこの曲を聴くと、壁一枚の向こうに濃厚な残暑を感じながら黙々とピアノを弾いた記憶が蘇ります。
全て録音し終え、ミックスも終了し、曲順も決まり、マスタリングスタジオに向かう車の中で、題名を考えました。
最初は英語にしようかとも。でも「Take off your shoes」がどうもピンと来なくて日本語に。
年月を経て眺めてみると、靴をぬぐのは「あなた」ではなく「私」だったんだと気付き、やっぱり日本語にして良かったなあと、今少し嬉しくなってます。

ここまでが1989年に発売された当時のオリジナル収録曲です。
以下、再発の際のボーナストラックです。

12.スペインの雨
エッセイを読んで下さっている方は、ある程度御存知かも知れません。
アルバム『Darie』に収められている「デイジー」にまつわる某イベントのために書き下ろした曲です。
映画『マイ・フェア・レディ』の中で歌われる「The Rain In Spain」のサビだけ拝借して、私なりに作り替えました。カバーでも良かったんですが、原曲はサビしか曲といえる部分が無いのです。長い曲ですが、ほとんどセリフ。ミュージカルですからね。
そんなわけで違法を承知でガンガン作り替えたものがこの曲です。
完全打ち込みの、お手軽録音。使っているモジュールも一台きり。

13.LIQUID GIRL
メトロトロンのコンピレーションアルバム『International avant-garde conference vol.1』のために作った曲です。1992年。

詳しくは、そちらの曲解説で触れます。
 

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