CM 音楽 2000〜2001

<2000>

・「NTTコミュニケーションズ OCN  PCパック」
スタジオの都合上、生編成にもかかわらず楽器ごとにバラ録り。では場所が広ければ一度に録音できたのか、と言われると答えはノーです。15秒の中に大量の音楽情報を詰め込むのもコマーシャルの醍醐味。ときには演奏不可能なものを何度も何度もトライして録音する事も。演奏家の方には大変な思いをさせてしまう事もありますが、出来上がりが素晴らしければみんな嬉しい。映像の方は「日興證券」と同じ監督さん。構造のしっかりした建造物の様なコマーシャル魂を感じました。

・「日興證券企業広告」

30秒タイプのみ。シリーズで何本 か担当してますが、一貫してアコースティックなサウンド。室内楽的な木管小編成ものや、ピアノソロなど、私っぽくもあり、全然違う様でもあり。クラシカルな編成が多いのは別に私がこだわっている訳ではなく、単に制作サイドの要望です。「今回はフルオーケストラの雰囲気で」との注文でしたが、予算etcの都合によりオーバーダビングが許されたぶん面白い音楽に仕上がったと思います。少し昔のアメリカ。こんなの書いた事な〜い。良いお勉強させて頂きました。こういう音楽ばかり発注されると逆にバリバリのテクノなんぞ作ってみたくなるものです。かと言ってあんまり「っぽい事」ばかりでもキカン気な創作意欲が減退するし。髪の毛まっ赤に染めてみようか・・などと、ついつい考えてしまうのでした。モチロンしないけど。

・「クックアップ サウンドロゴ」
料理用ペーパーなのでしょうか、実物を手にする事が無いまま現在に至っているので、どんなものなのか詳しく御説明することは出来ませんが、とても便利なものらしいです。簡単に破れないのでコレに包んでナッツ類を砕くのにも良いし、水きりをするのにも最適。ぎゅっと絞っても破れない・・・のだそうです。地方でのオンエアーを経て全国展開する際にサウンドロゴを差し換えることになったので、私が作りました(なので本編の音楽は他の作曲家さんが書かれたものです)。
ロゴの歌は他の方が歌う事に始めから決まってまして、いや〜それはそれで幸いと言うべきか、う、歌わされなくてオラほんとうに良かっただぁぁ・・・、いや、マジで。オケ(伴奏のことですね)はさくさくと録り終えましたが、歌入れが死ぬほど大変で・・。何が大変って、監督さんの求める歌い方が我々にまったく理解できなかったのでした。通常、歌い手さんにアレコレ方向性を説明するのは、音楽ディレクターか作曲家(この場合は私)の役割で、監督さんは全体としての感想をあくまで俯瞰の視点で述べる・・というのがよくある現場の風景なのですが、この時の監督さんはとても積極的に録音に参加してくださる希少なタイプの方だったのです。もちろんそれは大変結構な事なんです。が、困ったことに、何を求めて何度も歌い直しをさせるのか、最後までよくわからなかった。意思の疎通って、難しいときには難しいのです。しかし。コマーシャルの録音現場というものは、たとえ音楽を作る場であっても、映像の監督さんの意向はとても重要なのです。一見納得できないような提案でも、まず実行して見せてあげる必要がある。それによって思いもよらないほど良い結果が得られる時も、確かにあるのです。
私も音楽ディレクターも困りましたが、とにかく監督さんのおっしゃる「こんなかんじ」とか「あんなかんじ」をなるべく歌い手さんにわかりやすい音楽的な言葉に変換して伝えるのに一苦労。しかし一番気の毒だったのはその日呼ばれた歌い手さんで、「ク〜ックアップ、ク〜ックアップ、クックアップ♪」という単純なロゴを2時間近く歌い続け。聞けば、出産でしばらくスタジオのお仕事をお休みしていて、その日が復帰第1日目だったそうな・・・。
オンエアーを聴く限りでは苦心の痕跡は見当たらず、結果オーライではありました。オケはシンプルに、矢口博康さんのsax多重録音と私のリコーダーのみです。

・「ソフィ・アクティブサポート夜用」
エリック・サティの「ジュ・トゥ・ヴ」のアレンジです。オルゴールの音源で、100%私の手弾き。録音時、映像はまだ未編集だったので、最終形をみんなで想像しながら、やいのやいの。それに私が反応し、その場で直に弾いて録音する方式でした。通常のレコーディングとはかなり異なる手法です。まず何パターンもの断片を録音し、映像を編集した後、音楽の断片を選んでは部分部分にはめ込んでいくため、微妙に長さの違うたくさんの「ジュ・トゥ・ヴ」を演奏しなければならなかったけれど、面白くはありました。アレンジャーというよりは、演奏家に徹するという感じ。なめらかだったり、たどたどしかったり、立ち止まったり、囁くようだったり。
オンエアーされた完成形を見て、バラバラに録った断片のどれとどれを組み合わせたのか、弾いた本人にもわからないほど巧みな編集でした。映像は、すやすやと眠る女性の寝顔のクローズアップなどなど。とてもリアルな飾らない寝息が全編に。

<2001>

・「積水ハウス・シャーウッド」 Ver.1 Ver.2
高級感あふれる木造住宅。映像は2タイプありまして、たっぷりと陽光の差し込む広々としたリビングルームで赤ちゃんが孤独な筋トレに励む「赤ちゃん篇」と、犬が月面宙返りや3回転ひねりなどを披露しながら階段を降りてくる「犬篇」。
「赤ちゃん篇」の音楽は、ラジオ体操風のピアノ曲。お隣のお宅からうっすらと聴こえてくるピアノの練習曲のようなイメージなんだけど気がつけば何となく赤ちゃんの腹筋運動とシンクロしてくる音楽で・・・という発注でした(=Ver.2)。
本編最後に流れる両タイプ共通の木管アンサンブルは、ファゴット1、クラリネット2、オーボエ1、ピアノ1。10秒に満たない短い曲です(=Ver.1)。
録音は午前中のスタート。私を含め多くの音楽業界人にとって午前中の録音はとにかく身体にこたえるものなのですが、この日の録音はスキッと気持ちよく進行。音録りはまさに一瞬(?)で終了。ゆるやかにトラックダウンなどに移行しつつ、強面で知られるとあるベーシストの武勇伝など、このCMの録音にはまったく関係の無い世間話も交えながら、和やかに和やかに。きわめてストレスの少ない録音でした。
それにしてもウルトラEを難無くこなす技巧派のワンちゃん、しっぽの巻きが愛くるしい。ゴールデンも良いけれど和犬も可愛いですねぇ、そんなところも犬好きの私にとってはいとも容易く録音が充実する理由となり得てしまうのです。もう仕事は終わったというのに、意味なく何度もビデオを見たりなんかして。今さらながら私って単純〜。

・「スバル・プレオ」
遠藤久美子さんご出演。私のアレンジしたスーダラ節を元気一杯に歌ってくれています。ス〜イスイ・・・軽快な走りと乗り心地を表現する意図により、スーダラ節なのだそうです。
車のCMは過去にも何度か担当させていただいてますが、この時ほど本番に漕ぎつけるまで山あり谷ありの困難なプロセスを経たCMは無かったように思います。関わるスタッフさん達が迷いに迷い、推敲に推敲を重ね、プランも相当な数にのぼり、私もデモテープを何度も提出し(過去最多提出数となりました)、ようやく本レコーディングを終えた時点でも、まだ採用になるかどうか未定でした。私のお仕事歴の中では、とっても珍しいパターン。
録音が終わって「やったー!おつかれさまでしたー!」と手放しで充足感に浸れないのは、音楽担当者として実に居心地がよくないものです。一生懸命録音したものがオンエアーされないかも知れないのだという事を前提に作業するのは、ビジネスといえども精神衛生上よろしくないし、第一どんな顔をしてスタジオでアレンジャーとして振る舞えばよいのか・・・。ギャラが支払われればそれで良い、という問題では無いのです。
しかもこの録音の翌日から所用で海外に出向かねばならず、心身ともにバタバタとしていたのも手伝って、どうにもスッキリしない印象が残っています。・・・と言ってもこれは、コマーシャル作りのほんの一端を担ったに過ぎない私の、ごくごく勝手な個人的印象です、念のため。完成形は映像スタッフさん達の苦労の甲斐あってか、とてもまとまりのあるスカッとしたコマーシャルに仕上がってました。
私のアレンジでオンエアーされる事になって良かったと言えばもちろん良かったのですが、それまでの大変に複雑なやりとりは、音楽エリアでのモチベーションを少なからず損なうものではありました。お仕事とは、そういうもの全部をふくめて、何事も貴重なお勉強なのですねェ・・・、私もまだまだ修行が足りないと再認識。
肝心の曲の方は、あまりにも有名な国民的名曲「スーダラ節」を一部歌詞などを変えてCM用に仕立てております。編成は打ち込みに加えて、アルトサックス、トロンボーン、マンドリン。当日お呼びした多才な演奏家の皆さんのお陰で、なかなか楽しい仕上がりとなりました。ラジオ用のセミロングバージョンも作成。

・「日本通運 企業CM」
海を越えて遥かアメリカから日本へ、迅速かつ的確に荷物が運ばれる様子をめまぐるしく流れる映像で表現。その映像を支える音楽ゆえ、テンポも速く仕掛けの多い曲となりました。
ほとんどのCMではフルオーケストラを呼ぶ時間と予算の余裕が無いため、打ち込みオ−ケストラ&部分的に生編成です。その部分的生の演奏家さん達〜4人のバイオリン、ホルン、トロンボーン〜の方々にはダビングをお願いしました。映像の編集が先行していたため、それに幾分あわせる必要もあり、変拍子音楽。しかもテンポ速し!
大編成のフルオーケストラサウンドを目指すため、久しぶりにテ−プのトラック数が足りなくなって唖然。エンジニアさんの手腕によりどうにか凌ぎつつ、どんどん録り進みました。
当日は他にも思いもよらないハプニングが続出、スタジオに居合わせた全員が揃って青ざめるシーンもありましたが、なんとか無事に終了。結果が良ければ、途中のアクシデントも楽しい思い出です。


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